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zoom RSS 「金興洙・平山郁夫二人展回想」KIM SOU訃報

<<   作成日時 : 2014/06/12 17:22   >>

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2014年6月9日午前3時、韓国画壇の巨星金興洙(キム・フンス)が世を去った。画名はKIM SOU(キムスー)。享年96歳の大往生である。芸術院美術分科の最高齢ながら、芸術院の集会には車いすを押してもらい必ず出席していたと聞く。

2001年にソウル、2002年には東京で平山郁夫との二人展を開催し日本との交流も深い。

二人展の日本側の主催は朝日新聞社。開催場所は「東京藝大大学美術館」(2002/1/8〜2/11)。韓国側の主催は東亜日報社でソウルの「芸術の殿堂美術館」(2001/5/1〜5/20)で開催した。

■二人展図録表紙右側(平山郁夫)「流沙浄土変」1976年作
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■二人展図録表紙左側(金興洙)「韓国の幻想」1979年作
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平山郁夫と金興洙、二人の間には少なからぬ因縁がある。その二人を結びつけているのが「東京藝術大学」である。

金興洙(キム・フンスー1919〜2014)は東京美術学校(現東京藝術大学)卒、渡仏しパリで活動。個展で完売する人気作家となったが、すぐさま画業の場をアメリカに移す。アメリカでは抽象を追究し、その後、具象と抽象の画面を調和させた「ハーモニズム」を確立。ロシアのプーシキン美術館、エルミタージュ美術館等での個展を成功させる。文化人最高の栄誉である金冠文化勲章を受勲。韓国芸術院会員。主なテーマは民族的な題材とヌード。「ヌードは世界平和につながる」と語る。

プーシキン美術館展(フランス絵画300年)ロシア富豪の芸術魂
サンクトペテルブルク・エルミタージュ美術館「豊かさとは」
「大エルミタージュ美術館展 西洋絵画の400年」世紀別ダイジェスト

■金興洙「僧舞図」(112×183)1978年作 エルミタージュ美術館所蔵
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■金興洙「女心」(80×155)1980年作
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平山郁夫(ひらやまいくお1930〜2009)は、東京芸大学長を歴任し、文化勲章受勲など、名実ともに日本画画壇の頂点に立った人物。広島に投下された原爆被爆の後遺症を患い死を見つめるようになる。仏教的なテーマはそこに起因する。ユネスコ親善大使を務め、国家を超えて壁画の学術研究や仏像などの文化財保護の活動を成し遂げていった。仏教伝来の道でもあるシルクロードを旅して描き続けたシリーズはスケールのある代表作である。

キトラ古墳「四神図」古代絵師の力量

■平山郁夫「ブルーモスクの夜」1976年作
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■平山郁夫「仏頭」1982年作
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二人の作風は平山が「静」だとすれば、金興洙は「動」。日本画に対して油彩画と、極めて対照的である。しかし、金興洙は「私たち二人の絵には東京藝大という同じ脈が流れている」という。この言葉はソウルで開催された二人展を金興洙自ら鑑賞しての感想である。

この二人展でのエピソードをはじめ、私が金興洙との交流で得たことは、拙著「ゆるしの美学(現代韓国画壇21人の軌跡)」で生々しく綴っているのでそれに譲る。

ここでは二人展の図録に掲載されているあいさつ文から少し抜粋し紹介したい。

●平山郁夫あいさつ文冒頭部分
・・・(略)・・・金興洙先生は旧東京美術学校(現東京藝術大学)油彩科のご出身である。私より10年余りの先輩でおられる。・・・
金先生は1988年ごろ、何かのご用で東京藝術大学美術学部を訪問されたことがある。その当時、私は美術学部長として、学部長室で金興洙先生とお会いしたことがある。お聞きすると、美術学校の卒業直前に軍事教官とのトラブルで、退学されたとのことだった。私は、その事件を聞いて、さぞかし金興洙先生の無念を想った。すでに事件から半世紀近い年月が過ぎているが、何とか遅れても、卒業証書をお渡しできないものかと考えた。・・・私の責任で可能だとの決断から・・・ソウルの金興洙先生に日本大使館で卒業証書をお渡しした思い出がある。・・・


●金興洙あいさつ文冒頭部分
1940年代末、・・・・軍事教練の補講を受けるため、他の学生の授業に参加した時であった。それは実に瞬く間におこった。陸軍大佐であるM教官が或る学生の頬ぺたをなぐった瞬間、すかさずその学生も教官の頬ぺたをなぐり返したのである。教官が地べたに倒れると同時に同級の学生たちはいっせいに拍手をした。そしたら向う側で他の小隊を指導していた帰還大尉Dが抜刀して、「この野郎」とさけびながら突撃してきたのである。そしたら今度は学生たちが一勢に手をつないで教官をかこんでとりこにして、事は終わった。
その問題の学生はその学年唯一の韓国の学生であった。私はあの時、日本の級友たちが危険をおかして抜刀の教官に立ち向かっているのを見た瞬間、自ずから 粛然とならざるを得なかった。・・・私の考えは変わらざるを得なかったのである。私が憎むべきものは帝国主義者であって、平和主義と人間愛に満ちた人達まで憎むべきではないという自覚であった。・・・


金興洙は学徒出陣を強要されそれを断り、そのことで東京美術学校の卒間近に退学を余儀なくされた。

もとより、金興洙は日本の植民地支配のもとで味わった屈辱から、日本人に対する敵愾心を抱いていた。ところが東京美術学校の日本人学生たちの崇高な魂に触れて自らの恨みが解かれたのだ。

金興洙はこれまで幾度かこのエピソードを直接私に話してくれたことがあるが、そのたびに愛すべきこの老人は涙をこぼすのである。人眼もはばからず。

芸術は民族や国家を超える。本物の芸術家たちは、既にそうした狭い枠組みを超越して世界と人間の本質を見つめている。

平山郁夫が日本の国立大学の学部長の立場で、異国の画家金興洙に、半世紀も経て卒業証書を贈るのには、おそらく並々ならぬ決断が要ったに違いない。そのことで平山にはなんの利益ももたらされない。しかし平山郁夫が金興洙に卒業証書を与えた行為は、ある意味で、国を代身して歴史を清算したことのように思える。

平山郁夫を突き動かしたものは、「美」を生み出す芸術家たちこそが具えている純粋な「愛」であった。つまり平山郁夫が為したことの背後にあった力は、あの東京美術学校の日本人学生たちが生命を賭して見せた美しい行為の原因となった力ー「愛」と同質で同等なものであると私は思う。 

それがこの二人展の根底に流れている。

最後に一つ、拙著「ゆるしの美学」が日本で発刊されたあとの金興洙のエピソードが、韓国の新聞である朝鮮日報の日本語版ウェブサイトhttp://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/06/10/2014061001411.htmlに載っていたので引用し紹介する。
本紙(朝鮮日報)が2007年に「リビングルームを書斎に」というキャンペーンを展開した時、彼はつえをついて編集局にやって来た。そして、ポケットからしわくちゃになった小切手を1枚取り出し、こう言った。「貧しくて机もなく、部屋に寝そべって勉強している子どもたちに、机でも買ってやってほしい」。その小切手の額面は5000万ウォン(約500万円)だった。

金興洙は戦前の日本で学んだ最後の韓国人の画家である。

あらゆるものが加速度的に過ぎ去ってゆく現代にあって、彼の死を通して見つめなおしてみるべきことがある。それはただ過去を振り返ることではない。未来に持ちこんでゆける大切なものを思い起こして見ることだ。

ところで、現代の政治が作った国家間、国民間の断絶を、私たち芸術を愛する者たちは繋ぎ合せていけるだろうか・・・。


「韓流ファインアート」韓国の画家たち

岬石・岡野浩二アトリエ訪問「光と空間」

■平山郁夫「バーミアンの大石仏」1968年作
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■金興洙「悟」(172×274)1977年作
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ポーラ美術館とコラーゲン(内面が支える美)


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