版画の買い方(3)「エディションとサイン」

今回は版画の基本知識(1)「オリジナルとエスタンプ」と(2)「版画の種類(技法)」の続きで、版画のエディション(限定枚数)とサインについてです。


●エディションナンバー

オリジナル版画において、必ず表示されているものがエディションナンバー(限定枚数)と作家の直筆サインです。


版画作品には、画面の外側のマージン(余白)に、10/100 といった数字が書かれています。これは「エディションナンバー」と呼ばれるもので、分母がその作品の「限定部数」を表します。この場合は、100部刷られたうちの10枚目という意味です。


ここで、1/100 と 100/100 との間には、何ら差異がありません。もしエディション総数が100なら、100枚全部刷り終わってから作家がサインとエディションナンバーを入れていきますので、刷った順番ではありません。つまり、分子の数字は作品の質や価格には何の関係もないのです。


数字がアラビア数字ではなく、ローマ数字のⅠ、Ⅱ、Ⅲ・・・という数字が使われることがあります。


これは通常よく使われている紙、アルシュ紙などに刷ったものには1、2、3というアラビア数字を使い、ローマ数字は追加で同じ版画をたとえば和紙に刷ったとき、つまり紙の種類を変えて刷った場合の数をあらわすときに使ったり、同様に国内販売用と海外販売用に分けて刷ったときに使ったりします。


●限定枚数以外に刷られたもの

エディションナンバーの代わりにE.AやH.Cというイニシャルのようなものが記されているものがあります。その意味は次のようになります。


E.A = エプルーブアルティスト(epreuve artiste 仏) 作家保存版

A.P = アーティストプルーフ ( artists proof 英) 作家用

H.C = オル・コメルス(hors commerce 仏) 非売品

P.P = プリンターズ・プルーフ( printer's proof 英) 刷元用


枚数に関しては、作家用や非売品はそれぞれエディション枚数の3%~10%くらいを別に刷ります。刷元(工房)用としては1~2部ですが、これらのものにも限定枚数を、例えばH.C1/10などと打つ場合があります。


非売品や作家用が市場に出てくることは多いですが、版画としての質や価値は通常エディションナンバーがあるものとなんら変わりはありません。


ただし、問題は、もし偽のサインを入れた贋作を作るとすれば、エディションナンバーは入れにくいので上記のEA・HCなどを使うことが多いはずです。そうしたことから、業者から委託を受けて販売するデパートでは、エディションのない版画は扱わないというところもあります。


●作家サイン

オリジナル版画にはほとんどエディションナンバーとともに作家の直筆サインが記入されます。また、このサインが無ければ美術品としての市場価値は極端に下がります。それほどオリジナルにおいてはサインの有無が重要です。


ここでいうオリジナルは「オリジナルとエスタンプ」でお伝えしたように、作家の合意のもとに作られたエスタンプ(複製)版画に作家がサインをしたものもオリジナルとみなします。


サインは鉛筆で行われます。鉛筆は筆圧などの鑑定をしやすい筆記用具です。サインの場所はマージン部分だけでなく、イメージ(画面)部分にされることもあります。


版を制作する時点で画面上に作家がサインを入れて、刷り上ったときに一緒に刷られているサインを「版上サイン」と言います。挿画本などに見られますが、ピカソのエッチングには裏文字になった版上サインが入ったものもあります。


このサインは基本的に直筆サインとは違いますので、版上サインが入ったものにさらに作家が鉛筆でエディションとサインを入れる場合があります。


●作家以外のサイン

エスタンプ版画の中には、作家の死後に作られ、そこにエディションナンバーとともに遺族のサインを入れたり、版画制作委員会の印や作家の名前を彫った印が用いられたりすることが多くあります。


例えばエコールド・パリの時代に活躍したモジリアニの油彩をもとにして、現代になってフランスのムルロー工房がリトグラフでエスタンプを制作しました。そこに鉛筆でしてある直筆サインはモジリアニの孫娘のものです。


これは日本の業者が版権を買って作ったものですが、エディション(限定枚数)も国内用と海外用の二種類あります。250部をフランス(あるいは日本)国内用、250部を海外用で全部で500部が刷られています。


■日本国内の業者が版権を取得して作ったモジリアニの版画「おさげ髪の少女」

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■「おさげ髪の少女」(油彩・原画)名古屋市立美術館所蔵

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上の原画の油彩画を版画と見比べると、原画をただコピーしているのではなく、ムルロー工房の職人が版画としてアレンジしていることがわかります。


こうしたエスタンプ版画は同じ作家のオリジナル版画に比べて安価です。ただし、もともとの作家の評価や人気度が高い場合は、エスタンプであっても人気の低いオリジナル版画よりも市場では高い値段で出回ります。


また、同じモジリアニの版画の中でもデジタルプリントで作られた高級印刷物があり、これは原画を忠実に再現していますが、限定枚数もサインも無く、美術品としての価値はありません。


それに対してムルロー工房のエスタンプ版画は、美術品としての価値はそれなりに備わっており、版画作品としての味わいもあります。


●贋作の版画

通常限定枚数を刷り終えた版画の原版は、それ以上刷られないようにすぐ潰します。しかし、時々工房が版を潰さずに、その版からさらに版画が刷られることがあります。


巨匠作家のそうした版画やあるいは試し刷りしたときのものに贋のサインを入れたものが市場に出ることがあります。版画の刷り自体は本物と変わらないのですが、サインだけがニセモノです。


具体的にはミロの晩年の版画でミロの死後にそうした偽ものが出回っているようです。鑑定が難しい、というよりもミロのタブロー(本画)が数千万円~数億円もするのに比べて、版画は本物でも(作品によりますが)業者価格で100万以下ですので、業者が鑑定にかける手間や鑑定手数料を考えれば、「手を出さない方が無難だ」という考えになります。


ミロのオリジナル版画を購入しようと思った場合は、扱っている業者に説明を求めて納得できるものを購入したほうがいいでしょう。


●たちの悪いエスタンプ

エスタンプの中にはオリジナル版画を写真製版やオフセットリトグラフでつくり、鉛筆の作家直筆サインまでもそのままそっくりに複製したものがあります。よく見れば鉛筆の筆圧が無く、印刷の場合はルーペで見ればサインにもドットが見えるのでそれだとわかります。


こうした複製版画は、有名作家のものは10万円以上の値段が付けられて売られている場合があります。しかもそれらしく保証書のようなものを発行したりして、さも価値のあるもののように見せかけています。


版画の知識の無い人が本物と錯覚してしまいそうなものです。


そうしたエスタンプに美術品としての価値はありません。


有名作家のオリジナル版画が高価なので、その作家の複製でも欲しいと言う人がいれば、例えばシャガールの美術館企画展のときに売店でジークレー版画が額付で5万円ほどで売られていましたが、せいぜいこのくらいの価格なら高級インテリア商品としておすすめできます。


●版画の値段

版画の値段は、オリジナルかエスタンプか、サインがあるかないか、エディション(限定枚数)が多いか少ないか、版数の違いなどによって制作コストがどれくらいかかったか、そして一番左右するのが作家の人気度で決まります。


流通価格というものは需要と供給で成り立ちますので。


これらを総合的に見て、その値段がつりあっているかどうかを判断しなければなりません。


そのためには信頼のおける業者から詳しい説明を求めて購入するのがベストだと思います。


ただし、美術品を買うに当たって一番重要なことは、「自分がその絵が好きかどうか」ということです。作品の財産性などを考えるよりも、その絵と一緒に過ごしたいかどうかを優先して作品を選ぶことです。絵画の価値(3)「精神性」その1・生き様を映す絵








芸術作品とは言えないがインテリアとしての複製絵画



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