逆遠近法「東洋の肖像画(朝鮮時代を中心として)」

2011年9月、韓国ソウルの国立博物館で開催された肖像画の展覧会を観ました。そこには朝鮮時代の王や士大夫や両班(ヤンバン)の肖像画を中心に、日本のものもいくつか展示されていました。※両班とは朝鮮時代の科挙試験に合格した貴族階級をいいます

     ■太祖肖像画1872年作↓
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  ■藤原鎌足肖像(日本)16世紀作↓
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朝鮮時代の肖像画にはいくつかの特徴的な表現がありますが、中でも私が注目したのは、モデルの足元に置かれた台あるいは敷物が逆遠近に描かれたものが多いことです。

それはルネッサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチが最初に描いた透視法による遠近法の逆の構図です。

     ■ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」↓
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朝鮮時代の肖像画は年代が古いものほど逆遠近の傾向が強いようですが、必ずしも年代で決まっているわけではなく、比較的年代が新しいものでも逆遠近に描かれているものが多くあります。

●平面的表現と立体的表現

もう一つ注目したことは、「18世紀以降の肖像画の中には陰影を強調して立体的に描かれたものもあった」ということです。

20世紀初頭からは特に西洋画の技術を学んだこともあり、立体表現の肖像画が数多く描かれましたが、19世紀以前においては平面と立体が折衷的に描かれていました。

     ■肖像画1783年作↓
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     ■肖像画1757年作↓
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     ■高宗御真20世紀初↓
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東洋の絵画が伝統的に「線描」による「平面的」表現がほとんどで、西洋的な「陰影」による「立体的」表現の絵画はおそらく宣教師などからもたらされたのでしょうが、朝鮮時代の画家たちにとっては新しい概念だったに違いありません。「乾隆帝肖像画」北京故宮博物院200選

絵画という芸術は、彫刻などの立体芸術に比べていきおい物質性が排除されます。

たとえ描かれているものが極めて写実的で立体的に表現されたものであったとしても、見る者はそれを現実空間の中に実在する物体とは認識しません。つまりイリュージョン(幻想・錯覚)です。私たちはそうした写実的な絵画を面白がって見ます。

鑑賞者は絵画の中の幻想空間と自分が存在する現実空間は連続していないことは当然知っているわけで、その隔たりの中でまるで現実のように感じるから面白いのです。

すると、おのずと内面が啓発され想像力が刺激されます。

人は絵画をイリュージョンと知って、絵画の中に描かれているものを知ろうとするからです。

ちなみに抽象絵画は形がない分、具象以上に見る側の想像力を刺激する傾向があります。

そうした観点から見れば、肖像画において、西洋の立体的表現に比べて東洋の平面的表現は、より物質性が排除され、同じ絵画ですがもっと鑑賞者の想像力を刺激して、自ずと人物像の精神的な要素に触れやすいと考えます。

朝鮮時代の画員や絵師たちは、モデルの形状を正確に写すこと以上にモデルの内面を描こうとしたであろうし、ならば、東洋的な線描による平面的な表現の方が物質性にとらわれず、別の面で彼らの目的を達成しやすかったかもしれません。

彼らは、「モデルの形状を正確に写し取った上でさらにモデルの内面に迫る」という肖像画の内的目的を胸に、顔に陰影をつけた立体表現を試みるものの、もともとそうした表現には慣れていないことと技術的な限界もあって、平面との折衷的な描き方にとどめたのではないかと思うのです。

19世紀末のフランス画壇に大きな影響を与えたのがジャポニズムです。そのジャポニズムの張本人である浮世絵は、輪郭線を使って平面的に描いています。ボストン美術館展「ジャポニスム」モネとゴッホが惚れた日本美術

浮世絵から影響を受けた西洋の画家たちのなかでもナビ派のゴーギャンは輪郭線を取り入れて描いた一人ですが、その動機は、内的に解釈するならば、物質性から離れて作品により精神性を求めたからではないかと考えられないでしょうか。

      ■ゴーギャン1897年作(部分)↓
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さて、話を本題の逆遠近法によって描かれた台や敷物に戻しましょう。

●逆遠近法的表現

通常の透視法的な表現とは下の肖像画や上記「高宗肖像画」の足を置く台にように手前が広く(長く)奥が狭まっています。

       ■金錫冑肖像画1680年ごろ↓
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ところが、東洋の多くの肖像画がまるで決まりごとのように手前が狭く奥の方が広くなるように描かれています。

      ■肖像画19世紀↓
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日本の嵯峨天皇があぐらをかいて座っている敷物も同じように逆遠近になっています。画像は掲載しませんが徳川家康像も同じです。

      ■嵯峨天皇肖像画1874年(明治時代)作↓
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また16世紀に両班を描いた「李賢輔肖像」もまた机が逆遠近になっています。

      ■李賢輔肖像1536年ころ↓
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●逆遠近に描いた理由

ではなぜこのような逆遠近による表現をしたのでしょうか?

その筋の専門家の中には学術的な回答を得ている方もおられるかもしれませんが、ここではあくまで私の推察を述べます。

「錯視でそう見える」ということも一つの考え方ですが、西洋の透視法的な描き方を知ったあとも逆遠近法で描かれている事実を見れば、何かの意図を持って描かれたのだと考えられます。

その一つの考察として上げられることは「視点が絵の中に描かれている人物の視点である」ということです。

つまり、絵に描かれた人物はこちらを見ており、その視点(絵の中から外側を見る視点)で事物を描けば、画面の外すなわちこちら側から見たときに全て逆遠近になるわけです。

全てを逆遠近に描いているのではなく、台や敷物に絞った一点を象徴的に描いているのですが、その逆遠近の描かれた事物一つによって見る者の視点が絵の中に立たされることになります。

ここに人間の意識とかかわる絵画のダイナミズムがあるのです。

現代の絵画においても、ピカソのキュビズムはもっと多様に構成されていますが、似たような視点だと言ってもいいでしょう。パブロ・ピカソ「キュビズム」と画業の変遷

朝鮮民画の中にも同じような視点があります。
朝鮮民画(5)「文房図(チェッコリ図)」(逆遠近に描かれています)
朝鮮民画(1)「民画とは」



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