幾何学的なのに東洋的な現代アート・金鳳台(2)「ボックスシリーズ」

芸術家が創造する作品は、すべからくインスピレーションの賜物です。たとえ写実的な風景画であったとしても「この風景を描きたい」という衝動は一つのインスピレーションです。それは作家の超意識からもたらされるもので、同時に潜在意識の影響を受けます。一人の人間の潜在意識には自分が生まれてからの全記憶とそれにとどまらない先祖の記憶や人類共通の意識までもがつながっていると考えられます。

ゆえに芸術作品は、芸術家の「意識」と、時空を超えた「無意識」が織り成して結実したものなのです。

さて、金鳳台(キム・ボンテ)の近作であるボックスシリーズは、韓国に帰国してから描いてきたウィンドウシリーズの後に来るもので、3~4年ほど前、70歳にして新たな境地に入った作品です。

    ■ボックスシリーズ作品
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写真を見てお分かりのように解体した箱をモデルにして平面に描いていますが、金鳳台作品のボックスシリーズの実物を見たことの無い人のために画材と描き方について少し説明します。

写真では解りづらいのですが、曇りのあるアクリル板の表と裏からアクリル絵の具で描いて、裏に描かれた部分は表からはぼんやりと見え、それが空気の厚みのようになって遠近感をかもし出します。

アクリル板の裏からの描写は、解体された「箱」のどこかの面に用いられ、直線による意図的な逆遠近の構成とともに、「ウィンドウシリーズ」よりも全体的にはもっと立体的な絵画空間を築いています。

ウィンドウシリーズは、直線による原色の面と線の幾何学的抽象作品でしたが、ボックスシリーズは、「箱」という具象的な要素が強く入り込んできており、さらに「箱」が擬人化されていることで、血が通ったような温かみを感じさせます。

しかもその姿はどことなく滑稽に見え、滑稽さは見る者の情を啓発し作品に対する親近感をわきたたせます。

    ■ボックスシリーズの立体作品(紙に彩色)
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    ■ボックスシリーズの立体作品(ブロンズに彩色)
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    ■針金によるボックスシリーズ
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金鳳台に「ウインドウ」から「ボックス」に変わる頃の心境を訊ねてみました。

「箱を開いて立ててみると人間がバンザイしたり、踊りを踊ったりしているように見えます。それが面白かったこともありますが、何よりも箱を開くということに自分自身を開いて解放するという意味性を感じたのです。」

そして、近年の作品には箱がより具体的に描かれています。

「このごろは箱を積み重ねて塔のようにしたものを作っています。作品に登場する箱は全て実際にあるもので、最近はそこに印刷されているロゴや数字なども描くようになりました。つまりこの箱は私の生活に実際にある物で、つまりは生活そのものです。」

    ■ボックスシリーズの塔
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    ■下絵デッサン
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金鳳台の作品はシャープな直線と平面で構成されており、そこに以前に紹介した逆遠近法のようなアンバランスな要素を盛り込んでいます。
朝鮮民画(5)「文房図(チェッコリ図)」(逆遠近に描かれています)

金鳳台は、韓国で西洋美術を学んだ後にアメリカに留学して抽象絵画を本格的に学んでいることから、これはキュビズムからの影響と見るのが普通でしょう。

しかし、キュビズム以前のフランスの印象派は浮世絵の影響を受けており、また米国のデビット・ホックニーは東洋の美術からヒントを得て逆遠近的な構成の作品を描いていることを思えば、巡りめぐってそのルーツはやはり東洋であり、東洋人である金鳳台の現代アートを「東洋的特長を備えている」と見るのは自然な見方だと思うのです。

アクリル板の裏から描くという技法に似たものとして、古来西洋ではガラス絵があり、韓国では絹や紙の裏側からも彩色した「高麗仏画」や「肖像画」があります。

これは東洋では千年以上も前から伝統的に使われてきた技法です。しかし金鳳台に訊いてみても「高麗仏画」や「肖像画」は作品制作上の発想にはありませんでした。

また金鳳台の原色は、東洋で古代から使われてきた「五方色」をもとにしており、韓国では五方色によるセットンという原色を配列した模様があります。儒教的質素さを強いられた朝鮮時代において、人々がこの原色を外で使うのは祝祭など限られたときだけでしたが、家の中の物にはよく使われ、こよなく愛された色でした。

「五方色」の詳しい説明は次の機会に譲ります。

金鳳台はこれを意識的に使用していました。それは民族的意識です。



金鳳台の作品は抽象絵画です。

シャープな直線で構成された幾何学的な抽象は無機質で冷たい抽象となりがちですが、彼の絵からは何かあたたかいものを感じるのは、箱という具体的形体に人間を見るような滑稽さがあるからでしょう。そして作家の制作の動機が人間や生活に根ざしているからなのです。

幾何学的な直線は、むしろテクノロジーの中に生きる現代に相応しい絵画表現です。直線は現代人には違和感なく受け止められやすく、現代人の心に静かに寄り添いながら、いつの間にか、絵の中に流れているあたたかな血を通わせてくれます。


金鳳台は、芸術家の意識と無意識を交差させ、自らの血に潜む土俗的な伝統を、洗練された現代アートとして見事に昇華させた稀有な作家なのです。
韓国現代アート金鳳台(1)「ウィンドウシリーズ」
韓流ファインアート

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