朝鮮民画(5)「文房図(チェッコリ図)」

韓国で本や文房具などを絵にした民画を「チェッコリ」といいます。チェックは本を意味し、コリはその周辺のものをあらわしますが、続けて言えばチェッコリになります。

朝鮮民画(1)「民画とは」
朝鮮民画(2)「文字図Ⅰ(孝悌)」
朝鮮民画(3)「文字図Ⅱ(忠信禮義廉恥)」
朝鮮民画(4)「虎図」
朝鮮民画(6)「花鳥図ー牡丹図」
朝鮮民画(7)「花鳥図ー宮廷画家も描いた上手編」
朝鮮民画(8)「花鳥図ー下手編(わくわくするパボ民画)」
朝鮮民画(9)「山水図―金剛山図」民画の本質
朝鮮民画(10)「花鳥図ー蓮華図」

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文房図(チェッコリ図)に描かれているものは「本」が中心で、その周りに紙・墨・筆・硯の文房四友をはじめ、果物・茶器・扇子・花・花瓶・盆栽・眼鏡・時計・碁盤・舶来の品など、当時の儒学者たちの生活に登場するものが一緒に描かれています。

■文房図の社会的背景

韓国の朝鮮王朝時代(1392~1910年)においては、中国が随から清代末まで続けていたと同じような科挙試験制度がありました。韓国が中国に倣って科挙を取り入れたのは高麗時代(918~1392年)からで、この科挙試験とは現在で言えば高級官僚になるための登竜門です。合格すると士大夫や両班(ヤンバン)といわれた為政者となる道が開かれ富と名声を得ることになります。

中国も韓国も武力で王朝が変わってきた歴史にもかかわらず、文官が上位で武官は下位でした。

ちなみに江戸時代の日本では科挙がなく武士階級が最上位で世襲によって身分が決まりました。ただ日本の武士においても文武両道の言葉が示すように儒教の勉強は必須でした。

朝鮮王朝時代の身分制度の最上位に位置する両班になるためには科挙に受かるために儒学が必要であり、当然そうした家系においては身分を維持するためにも子女に勉学を励ませたはずです。

このように文房図が登場した背景には学問への崇拝があり、主に子供部屋や書斎に飾られ、また書堂(子供が学問を学ぶ学校のようなところ)、そして子供の誕生日などに飾られたりしました。

■逆遠近法

東洋の肖像画で紹介しました「逆遠近法」がこの民画(文房図)にも使われています。手前のものほど小さく、奥に行くほど大きく描かれており、それは本の形に顕著に観ることが出来ます。

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この文房図が部屋に飾られたところを想像してみてください。部屋に居る人は絵に対面して座るわけではなく、その絵を背にして机をおいて座ります。

この逆遠近に描かれた絵は、こちらから見て絵の奥の方に視点があることになります。そこからの目線は、絵を背にして座っている人の目線の方向と重なることになります。言ってみれば、絵の前に座っている人が、自分の後ろにある絵(文房図=学問)の世界に取り込まれているような構図です。

もし子供部屋であれば、机に向かって勉強をしている子供を背後から絵が見守っているような姿としてみることも出来ます。

絵の外の私たちが存在する現実空間からの視点ではなく、絵の中の空間に入り込んだところに視点の中心があるのです。つまり絵の中からこちらの空間を見てこちら側に視線の結点があるのです。

なんとも面白いと思いませんか?

また、上の左の絵は上からと正面からの多視点からの構図です。

こうした表現は最初に誰かが行い、それに倣って描かれてきました。それが決まりごとのようになって受け継がれていきます。

チェッコリ図の逆遠近は、学問の世界を崇拝する心が、このように描かせたと見ることもできるでしょう。

■時代とともに移り変わる文房図

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文房図は書棚が描かれたものと書棚が無く積み上げ式に描かれたものに二分され、時代が遡るほど上の画像のように書棚に本が並んでいるものが多く描かれました。初期の頃は写実的で整然と威厳を持って描かれていますが、次第にデフォルメがほどこされてゆくようになります。

時代が下るほど様々なものが一緒に描かれて、鳥の剥製などの置物やときには飛んでいる鳥そのものが描かれたりもしました。

さらに初期の頃の意味性は次第に薄れて、装飾品としての利用価値が大きくなって来たようです。

題材の性質から、文房図は主に画員と呼ばれた宮廷画家やプロの手になるものが多かったと思われますが、民画全体の中でも優れた絵画性を持ち、現代の絵画に比べて劣らない一級の静物画と言えます。

また素人の絵師たちが鮮やかな色使いで自由に描いた絵は、デッサンが崩れ構図的な計算などが無視された稚拙な表現なのですが、その素朴な味わいこそが民画の民画たる魅力であると私は思うのです。
朝鮮民画(8)「花鳥図ー下手編(わくわくするパボ民画)」
韓流ファインアート

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