「乾隆帝肖像画」/北京故宮博物院200選(2)

NHK日曜美術館でトーハクの「特別展・北京故宮博物院200選」の放映があり、小説家の浅田次郎がゲスト出演していました。中国清朝を舞台にした浅田次郎の長編小説「蒼穹の昴」文庫本4巻を読んで感銘を受け、続編である「珍妃の井戸」と「中原の虹」文庫本4巻をちょうど読み終えたばかりの私には、とても興味深いものでした。

この長編小説の中でたびたび影のように登場するのが中国清朝の第六代皇帝、乾隆帝(1711~1799)です。

清朝(1644~1912)は、愛新覚羅(アイシンギョロ)の姓氏を持つ満州民族(女真族)が中国を統一して立てた王朝ですが、明朝(1368~1644)を築いた漢族の文化を踏襲しました。清朝の歴代皇帝の中でも乾隆帝は中国の伝統的な文物をこよなく愛した人物で、今回の展覧会でも乾隆帝が集めた一級文物を数多く観ることができます。

乾隆帝の肖像画もいくつかあって、その中で即位した年の乾隆帝を描いたものが下の図です。明るい黄色の満州族の衣装を身に着けています。

     ■「乾隆帝像」乾隆元年(1736年)絹本着色
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乾隆帝は清朝で世相が最も安定した頃の皇帝であったせいか、描かれた穏やかな表情はいかにも上品な貴族の面持ちです。

これを描いたのが、イタリア人でイエズス会の宣教師で画家でもあったジュゼッペ・カスティリオーネ(1688~1766)。彼は1715年に清朝の中国にわたり西洋画の技法を伝え、美術や建築に影響を与えました。

彼が制作に関わったことにより、この乾隆帝の肖像画には透視法を用いた遠近感と立体感が備わっています。これは東洋の伝統的な肖像画の描き方とは異質な西洋画の手法によるものです。
逆遠近法「東洋の肖像画」

また、皇帝のみがその使用が許されたという黄色は、陰陽五行説に依拠した「五方色」の中で中央を意味する色です。(北は黒・東は青・南は赤・西は白・中間が黄色)
李重煕「気韻生動と五方色」

中華思想では、中国大陸を制した朝廷が世界の中心であり、その文化、思想が最も価値のあるものとしています。世界の中心のさらなる中心は皇帝その人(天子)であり、黄色は中国皇帝にだけに許された色ということになります。従って中国国内のみならず属国となった他の国にも黄色の使用を禁じました。

ちなみにサッカー日本代表のユニフォームのジャパンブルー(青)は、日本という国は極東の島国ですから大陸を中心と見れば東という方位の色に合致するわけです。そういう思想がサッカー関係者にあったかどうかはわかりませんが。

さらにサッカー日本代表のシンボルマークは八咫烏(やたがらす)という三本の足を持ったカラスで、これは古代朝鮮で高句麗(紀元前37~668)を建国した朱蒙(チュモン)の韓流歴史ドラマを見ると三足烏(さんぞくう)として登場します。

日本で八咫烏は神武東征の日本神話に登場する鳥ですが、日本の八咫烏が高句麗と全く関係が無いと見ることのほうが難しいでしょう。

中国神話でも太陽に棲むという三足烏は太陽そのものの象徴でした。高句麗の道教でも日本の神道でも古来3は太陽をあらわす陽の数とされてきました。またカラスを太陽の象徴とする神話は遠くマヤ文明にもあるそうです。

いつものくせで話がずれました。

色に話を戻せば、このように黄色は世界の中心という一つの権威の色です。

ここに掲げた乾隆帝肖像画は、東洋三国に共通する色彩哲学をもとにした明るい黄色の衣装をまとった天子の姿です。それは民の平安のために天命をいただいて立つ者の姿です。

しかし東洋の歴史的な皇帝の肖像画としてこの「乾隆帝肖像」はどうでしょうか?

絵画を描く目的は装飾のためなど様々にありますが、近代以降(西洋ではルネッサンス以降)に芸術家が自由な発想で描く以前は、決まりごとが多く、絞られた目的のもとに描かれたと思います。

肖像画というジャンルは今でもそうですが実際よりも美化される必要があります。それは外的な美化というよりも内的なそれです。

特に皇帝の肖像画ともなれば、神聖さや威厳といったものをどこかに漂わせてこそ肖像画としての存在価値があるはずです。

ところが西洋人が西洋的な技法で描くことで、華やかさと物質的な存在感を備えた優れたリアリズム絵画となっているものの、そこには、(たとえ皇帝という存在は人間が作り上げたものにせよ)天来の神聖な権威に対する畏怖や皇帝の威厳というものが薫り立ってはいないように思うのです。

精緻で鮮やかな描写ではありますが、肖像画として物足りなさを感じるのは私だけでしょうか?

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