尾形光琳「紅白梅図屏風」-銀箔・月光・暗香

NHK日曜美術館の尾形光琳「紅白梅図屏風」の放映は実に貴重な内容でした。

この国宝作品を所蔵しているMOA美術館と東京理科大学による最近の科学的研究結果と、それに基づいて、日本画家である森山知己が再現制作した状況をつぶさに見ることができました。

紅白梅図の中央を流れる川の水流の意匠(デザイン)は琳派のロゴマークとも言ってもおかしくないくらい代表的なものです。

琳派が興ったのは江戸時代ですが、光琳の「紅白梅図屏風」の水流は現代に比較しても色あせない新しさがあります。
宗達・光琳・抱一「風神雷神図」


    ■尾形光琳「紅白梅図屏風」二曲一双全体図
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     ■左隻「白梅」
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     ■右隻「紅梅」
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●どのようにつくられたか?

日曜美術館を見て、まず作画の技術的なことがわかりました。

尾形光琳(1658~1716)の晩年(18世紀)の代表作「紅白梅図屏風」(一隻あたり各156.0×172.2㎝)は、左右の紅白梅図のところは金箔の上に描かれており、中央を流れる川の部分は銀箔を使っています。しかも両方とも江戸時代当時に使われていた「縁付」という薄い箔です。

水流の「黒い部分」は銀箔を硫黄で硫化させることで出来ており、水流の模様の「茶色い部分」は銀箔が硫化されずに残った部分です。

水流の模様は本来白銀色だったのが、銀色が古色を帯びて(経年変化して)茶色っぽく変わったと考えられるわけです。

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     ※画像は森山知己のHPより
森山知己HP銀箔の紹介)

これまで水流部分の表現方法に二つの説が唱えられていました。

一つは、銀箔の上にドウサなどで水流を描き、全体に上から硫黄をまぶして残った部分を硫化させて黒くする方法。(ドウサが銀箔と硫黄の接触を防ぎますからその部分は黒くならず白銀が残ります。)もう一つの説は水流の線がシャープなことから水流の型紙を切って貼り付けてその上から硫黄をまぶしたという説です。

今回、日本画家の森山知己が描法を再現したのはドウサを使って筆で描く手法でした。

まず、描いている様子から、もし型紙を使った場合は、東洋画の命とも言える線描の勢いが生まれないということが見て取れましたし、再現制作した森山知己自身が語った「筆で描いた方が水流の勢いが出せる」という言葉も頷けるものでした。

これはこのブログで幾度か述べてきた「気韻生動」を画面に現すためにも、型紙を使うよりは筆で直接描き入れるほうがよいということにつながります。

※気韻生動に関連する説明は以下の記事に出てきます
黄庭堅「草書諸上座帖巻」/北京故宮博物院200選(3)
神品「清明上河図巻」/北京故宮博物院(1)
李重煕「気韻生動と五方色」

森山知己がよみがえらせた「紅白梅図屏風」を見て目をうばわれたのは、銀箔を使った部分である水流の白銀色と黒色との鮮やかなコントラストです。光琳が描いた当初も本来このように白銀が輝やいていたのでしょう。

●何を描いたのだろうか

「紅白梅図屏風」はシンメトリーな左右対称の構図で、そこに描かれているのは「右側の女性的な容姿の紅梅」と「左側のダイナミックで男性的な白梅」のコントラストつまり対照性です。さらに金箔と銀箔の対照性、そして水流の模様にあらわれた白銀と黒の対照性です。

番組の解説にも出てきましたが、この「黒」と「白銀」の対比から感じるのは「夜の闇」と「月の光」です。

水流の模様が白銀であってこそ「月の光」をイメージすることが出来ます。すなわち「夜」としてこの絵を見れるのです。

森羅万象の美は、対照的な存在や状態の調和と一体化によって築かれています。

闇を照らす月の光が、流れる川の黒い水面に白くキラめく姿を思い浮かべてください。綺麗でしょう。

●月光と暗香

では「梅の花」と「夜」とはどんな関係があるのでしょうか?

梅の花が最も香りを放つのは夜です。

闇の中でどこからともなく漂ってくる梅の花の香りを「暗香(あんこう)」と言います。

私の経験上、確かに夜の方が梅の花の香りは際立ちます。

それは、気圧の関係なのか、夜になると香りは上空に逃げないで地上に留まり、また夜は目が利かない分だけ人間の鼻などの器官が敏感になるからなのでしょう。

一日のうちの夜は一年のうちの冬に相当します。梅は、冬の終わりに春を告げる花として咲きますが、それは寒く厳しい状態から暖かな希望へと向かうことの象徴でもあります。

梅の花を見てそのかぐわしい高貴な香りをかげば、人々は春がもうそこに来ているという希望を抱きます。

梅の香りは人格の香りに喩えられます。

高貴な人格を持った人は言葉を語らずとも他者に癒やしや希望を与える、そんな人間こそが誰もがあこがれてやまない「君子」なのです。

これから梅の季節が始まります。咲きはじめの香りがいいですので、早めに、そしてお出かけになる際は夜がいいですよ。

ライトアップされた梅林よりも月明かりの下で誰かとロマンチックな夜を過ごされるのはいかがでしょうか。

風邪をひかないように温かく寄り添いながら・・・。

尾形光琳の「紅白梅図屏風」は熱海のMOA美術館で毎年梅が咲く時期で3月はじめころまで公開されています。

宗達・光琳・抱一「風神雷神図」

竹内栖鳳展「近代日本画の巨人」(栖鳳と大観)


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