小説「貴婦人と一角獣」(その1)by RYOTA

国立新美術館で「貴婦人と一角獣展」(2013年4月24日~7月15日)が開催されています。フランス国立クリュニー中世美術館の至宝をひと目見ようと、多くの日本の貴婦人たちが詰めかけていました。

■貴婦人と一角獣「我が唯一の望み」
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 鮮やかな赤地に千花文様と愛らしい動物たち。中央には中世ヨーロッパのドレスを纏った貴婦人、左には獅子、そして右側には伝説の一角獣が描かれたタピスリーが6連作で織られたのは西暦1500年ごろのことでした。6作すべてに登場する紋章の主「ルヴィスト家」が作らせたこのタピスリーは、当時の恋に戯れるフランス貴族の遊び心を感じますが、どこか謎めいています。特に、注文主とされるアントワーヌ・ルヴィストと彼の最初の妻ジャクリーンのイニシャル(AとJ=I)、そして「我が唯一の望み」という文字を織り込ませた6番目のそれは、その意味をめぐってさまざまな解釈がなされてきました。

今回は「貴婦人と一角獣展」からうけたインスピレーションを小説風に仕立てました。ちなみに私は先人が書いた「貴婦人と一角獣」にまつわる小説を読んだことが一度もありませんのでオリジナルフィクションストーリー(by RYOTA)です。


 明美は美しい婦人である。しかも成人式を終えた3人の子供がいるとは思えないほど若く見える。「若さの秘訣が何か」と他人に問われれば、彼女は「人と接する仕事を続けていること、夫はサラリーマンで平凡な人だけど夫を愛していること、そしてなによりも大好きな美術鑑賞の趣味が自分を生き生きさせてくれていると思うの」と臆面もなくそう答える。
 この日、地下鉄乃木坂駅の階段をのぼりながら明美は少女のようにウキウキとしていた。それは梅雨の合間の晴れ渡った天気のせいでもこの日一緒にきてくれた仲のよい友人園子のおかげでもない。ただ、お目当ての「貴婦人と一角獣」に逢えることの期待感だけが彼女を浮かれさせていた。
 東京の国立新美術館で「貴婦人と一角獣展」が開催されるという情報を得たときから、明美はなにかそわそわしていた。それがなぜなのかは自分でもわからなかった。地下鉄を出てついに美術館の前に立ったとき、「やっとこの日が来たんだ」という想いが溢れてきて、自分でもおかしくなるほど胸が高鳴っていた。
 園子と交わした「互いに見たいように見よう」という取り決めも後押しして、明美は入口の案内文もそっちのけで足早に奥へと進んだ。もはや高鳴る胸の鼓動だけが明美を動かしている。
 美術館の中は展示物への照明効果を上げるために薄暗い。観客は中に足を踏み入れると同時に日常とは切り離された別世界に置かれることとなる。
 明美は美術館の最初の部屋に足を踏み入れた。その瞬間、背中から頭のてっぺんに駆け昇るような戦慄を覚えた。目の前には6枚の巨大なタピスリーが国立新美術館の高い天井から吊るされ、観客を半円状に取り囲むような形で配置されていた。500年以上も前に織られたというタピスリーは中世の城を飾るにふさわしく重厚である。それが一堂に掛けられた姿はまさに圧巻と言うしかなかった。
 人間の五感をあらわす「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」の5つのタピスリーが左から順番に飾られ、一番右端の6枚目の絵の中の天幕に「我が唯一の望み」という文字が織り込まれている。そして天幕の前に立った主人公の貴婦人が宝石箱に宝石を戻しているようにも宝石を中から取り上げているようにも見える。「我が唯一の望み」の文字と貴婦人の行為がどこか謎めいたものを漂わせている。
 研究熱心な明美は十分な予備知識を持ってこの場に臨んでいだ。しかし、半世紀の時を超えてそこに在るタピスリーは、生半可な知識をあざ笑うかのように明美を圧倒したのである。
 「知識には限界があるのね。」
 明美は左から一枚ずつゆっくり観てから、もう一度全てを見渡せる中央に立って眺め、全身で貴婦人と一角獣を感じ取った。美術館に足を踏み入れた時から続いている胸の高鳴りはもはや最高潮に達し、彼女の目は潤んできた。するとどうだろう、6枚のタピスリーはゆっくりと明美を中心にして左側に回り始めたのだ。だんだんとスピードを速めるタピスリーを目で追ううちに、いつしか自分がタピスリーの中の貴婦人の衣装そのままでそこに佇んでいることに気付いた。
 途端、すべてが遠ざかる闇の中に消えていった。

 風が頬を撫で草の匂いが明美の鼻をついた。鳥の声がして薄目を開けると、霧が立ち込める白い森の中である。
 「自分は気を失っていたのだろうか・・・」
 「どのくらいの時間が経ったのだろう・・・」
 「ここはどこだろう・・・」
 体を起こしぼんやりと遠くを眺めていると、向こうからこちらに向かってゆっくりと近寄ってくる存在がある。明美は目を凝らした。
 「一角獣」
 一瞬息を飲み込み、目だけがその獣を追った。タピスリーに描かれた一角獣よりも美しい。体を覆った白い毛並みはキラキラとした光を帯びている。一角獣はしなやかな動きで明美の周りを歩き始めた。そして立ち止まり声を発した。
 「お前を待っていたよ。」
 一角獣はおごそかな男性の声で人間の言葉を話した。その言葉は耳で聞くというよりも心に響くように伝わってくる。その目もまた人間のようで優しい光をたたえていた。とても獰猛な獣のようには見えない。一角獣は再び語りかけてきた。
 「お前を待っていたよ。」


続きは次回へ・・・

小説「貴婦人と一角獣」(その2)by RYOTA
小説「貴婦人と一角獣」(その3最終回)by RYOTA
小説「貴婦人と一角獣」(あとがきと続編ストーリー)

■貴婦人と一角獣「触覚」
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■貴婦人と一角獣「味覚」
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ミュシャ(ムハ)展『スラヴ叙事詩』民族の誇りを描く

絵画からインスピレーションを得た物語↓
「おどりを踊る二人」(徐世鈺)からの物語


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