韓国女流画家 李淑子「麦畑と裸婦」

韓国の画家、李淑子(Lee Sook-Jaイー・スッチャ 1945~)は、いまや韓国を代表する人気女流画家といってもよい。久々アトリエを訪ねた。


■李淑子「青麦」2010年

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彼女の絵は、いわゆる「東洋画」というジャンルで、韓国では水墨系の絵と分けられて「彩色画」と呼ばれている。韓紙を地に日本画の顔料でもある岩絵の具を膠で溶いて描く。


かつて高麗大学の教授時代には、日本画の平松礼二を特別講義等で韓国に招待し交流した時期がある。技術的には日本画とは共通する部分が多いが、自然の生命力を作品に表そうとする李淑子の制作姿勢に比べ、装飾性を強く求める現代の日本画とは基本的な違いがあるように思う。


李淑子の絵は青麦と黄麦を描いた「麦畑」のシリーズが特に人気があり、また豊満な体でポーズをとった「裸婦」が有名だ。


ここに初期から現在に至る李淑子の作品を少し掲載する。


■李淑子「裸婦たち」1970年

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■李淑子「作業」1985年

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■李淑子「黄麦畑」2002年

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■李淑子「青麦畑」2008年

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■李淑子「麦畑-四季 秋の野芥子」2008年

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李淑子の麦畑には、可憐な野花や小さな蝶などが描かれることが多い。私はそれを見ると、滝の絵で有名な日本画家の岩澤重夫が生前に語っていたことを思い出す。正確ではないがこんな内容だった。


「私の滝の絵はどうしても厳しくなる。そこで対照的なものとして優しく柔らかい花を描きたくなった」

■岩澤重夫「瀧聲花心」

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李淑子においても麦畑の麦の穂は細いシャープな線が一本一本描かれていて、とても凛とした厳しさがある。そこに優しい表情の野花が対比的に描かれることで、装飾的効果が生まれるとともに和みをもたらす。


しかし、李淑子の画面全体を支配しているものは自然の生命力そのもので、野花もまた強い生命力の象徴のように見えてしまう。


麦は特に強い生命力で知られる植物だ。広島に原爆が落とされた後に一番最初に芽を出したのも麦だという。その強さはこの民族の生命力の強さを象徴する。


近代だけを見ても、日本の植民地支配から解放されたかと思うや、同じ民族が南北に分かれて世界24カ国が参戦して戦った朝鮮戦争がぼっ発。1953年の休戦当時1000万の離散家族を残し、北緯38度線を境に物理的にも心情的にも引き裂かれ、未だその渦中にある。


そうした逆境にあって、韓国は見事な復興を遂げた。サムソンをはじめとして世界的な企業が現れて日本企業を追い越している現実は、まさに麦のような生命力が民族の根底にあることを物語っている。


李淑子の絵の中で群生する麦の穂は、風に揺れながらもまっすぐにその穂先を伸ばしている。写真ではわからないが、実際の絵の麦の実は絵の具を盛り上げて立体的に描いており、それは、コラージュが果たす役割と同様に、物質的な現実世界に立つ鑑賞者を絵画という幻想世界と繋げてその中に導いてくれている。


李淑子の麦畑を見る者は、いつしか彼女の絵の中を吹き抜ける風を肌に感じ、青麦や黄麦が放つ季節の匂いとともに、自然の力強い生命力が身に纏われる。私たちはその生命の力に魅了されるのだ。


裸婦はどうだろうか。


■李淑子「イブの麦畑」2009年

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■李淑子「青麦畑-黄牛」2010年

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李淑子が描く裸婦は、青麦畑の中や大きな花弁の花々の背景の中に、豊満な体で寝そべったりポーズをとったりした姿が描かれている。その姿態は、けっして美化されているわけではなく、女という存在そのものを全面に押し出すように、麦畑が生命力であるならば、女体もまた圧倒的な生命を宿した存在として描き出している。


女性の視点から描いているからなのか、わたしにはエロティックなものは感じられない。ただムンとした女の匂いが彼女の裸婦には漂う。


ここには画像を掲載しきれていないが、平松礼二との交流以降、日本画の装飾性が彼女の裸婦の絵にも多少影響を落としていったような気がする。


■李淑子「うれしい人生-青い薔薇の帽子」2011年

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■李淑子2013年8月撮影

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■李淑子アトリエ風景

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■アトリエにて 描きかけの新作

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■李淑子夫妻(2006年撮影)

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(彼女の夫は某一流新聞の論説委員を経て、現在は歴史小説を書いています)


■パリでの個展の際にフランスの美術雑誌で紹介される

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日本では1995年から2008年くらいまで開催されたコリアンアートフェアーで出品された。IT関連大企業S社の創業者S氏は在日コリアンだが、その母親が60号くらいの黄麦の作品を購入している。


その他、日本人にとっても彼女の麦の絵はどこか郷愁を呼び覚ますものがあり、惹かれる人は多い。パリでの個展も好評だったと聞く。李淑子の絵は、人間が生きるということの根源的な力を内に秘めているのだろう。








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