絵画の真贋鑑定―韓国国民画家・朴壽根(パク・スグン)「洗濯場」

韓国美術市場の評価と人気において、近現代作家としては朴壽根(パク・スグン)と李仲燮(イー・ジュンソプ)の二大巨匠に追随する画家は見当たらない。「韓国近現代絵画の父」「国民画家」と謳われた朴壽根(1914~1965)の生誕100周年を記念した回顧展が、2014年1月から仁寺洞カナアートセンターにて開催され、はじめて朴壽根の作品の全貌に直接触れる機会を得た。

朴壽根(パク・スグン)は韓国がまだ貧しく、美術市場が未だ成熟していないころ、アメリカの何人かのコレクターが彼の絵を購入し本国に持ち帰っている。

お金を出して買うという行為は最高の評価の仕方だ。

朴壽根の絵は韓国的である。つまり民族的な特色がある。白衣や当時の庶民の生活風景など画家が選んだモチーフそのものからして民族的なのである。韓国的な特色があり、しかも当時国内の評価が定まっていない画家の絵を外国人が購入したという事実は、民族的なものが世界的になり得ることを示している。

民族的なものはプリミティブ(原始的)で素朴なエネルギーに満ちている。それは人種の枠を超えて、誰もが内面に備えている感動の琴線を震わす。描き手が民族的な血に帰依することで、自らの意識を超えたもっと深いところからモチーフが選び出され、描き方が導かれ、作品にエネルギーが付与されるのだ。

朴壽根の絵のモチーフは、路傍や市場などで物を売る女人や子供たちや母子等、そうした対象を愛情に満ちた目で見つめて描いている。

■パク・スグン「赤子をおぶった少女」(38.2×17.5cm)1960年作
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■パク・スグン デッサン(18.5×13.5cm)
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■パク・スグン「市場の女人」(29.5×28cm)1963年作
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■パク・スグン「農樂」(54×31.5)1960年作
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■パク・スグン 水彩(24.5×30)1957年作
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私は彼の油彩画の独特のマチエールを見ながら「光を画面全体に平坦に散らしている」と感じた。夕暮れの柔らかな光を丁寧に画面に均等に織り込んでいるような印象を覚えたのだ。

石の肌のごとくざらついたマチエールと灰褐色の色彩は、見る者の遠い記憶を呼び覚ましてくれるような懐かしさと安心感に満ちている。

●魑魅魍魎とした美術業界
さて、2007年、韓国がアートバブルに沸いていたころ、45億2000万ウォン(当時の日本円で5億2600万円)という国内作家の最高落札額をたたき出した作品、それが朴壽根の「洗濯場」である。

しかし、すぐさまこの作品の真贋に対する疑惑が上がった。

権威のある専門家たちの鑑定委員会が結成され、結局は真作と認められたが、画家など一部の専門家の目には「贋作」と映り、未だに疑いはくすぶっている。

そもそも朴壽根の作品になぜこのような疑惑が出たかというと、その2年前の2005年に大規模な贋作事件が起きたことに発する。

※韓国中央日報2005年10月7日の日本語版記事から
「真偽をめぐり議論が広がっていた故李仲燮(イ・ジュンソプ)、朴寿根(パク・スグン)氏らの作品について、検察が「にせ物」と結論付けた。ソウル中央地検・刑事第7部は、7日「国立現代美術館に、両画家の作品58点(李氏39点、朴氏19点)の鑑定を依頼したところ、教授・画家・画廊代表ら16人全員が偽作と判断した」と伝えた。


お金が絡めばそれを目当ての悪さも生まれる。「金になるのであれば、贋作と知りながらも真作として売る」といった話は古美術の世界にはよくあることだが、世界のトップディーラーでさえないとはいえない。いやある。

オークション会社も、明らかに贋作と分かるものは出品を受け付けないが、真贋がはっきりせずに結果的に出品されて落札された作品に対する責任は取らない。つまり自分の目を信じてオークションに参加しなければならないのだ。

だから人気の高い物故作家の高額作品は「鑑定書」がなければ流通しにくい。

もちろん自分の目を信じて鑑定書なしで買うのはかまわないし絵を楽しむという観点では一切問題はない。しかし売ろうと思えば鑑定書がなければ苦労するということだ。

鑑定書の発行機関が外国ならば費用も手間もかさむ。販売価格が高額でなければ割に合わなくなる。

世界の美術市場における「鑑定書」は、通常、作家の遺族などその作家に対する権威のある個人や組織に発行してもらう。それ以外の「鑑定書」は紙屑に等しい。また画廊などが発行することのある「保証書」は信頼を高めることはあっても鑑定書としての効能を持たない。

その作家の作品鑑定の権威とみなされている人物が、贋作と知ってそれに鑑定書を発行するという悪さをしたりすることもたまにある。さらには鑑定書の贋作まで作られたりするので始末が悪い。

ちなみにエコール・ド・パリの人気作家、藤田嗣治の作品鑑定の世界的な権威は「東京美術倶楽部鑑定委員会」である。そこで開かれる鑑定会で10人ほどの鑑定委員の一人でも贋作とみなした場合、真作であることを保証する鑑定書は発行されないと聞く。こうした厳格さがあってこそ信頼できる鑑定書となる。

また、シャガールはかつてジャン・ルイ・プラーという人の鑑定があればよかったが、今は彼が委員長に立っての複数の人間で構成されている「シャガール委員会」(フランス)が発行したものでなければ信用が薄い。

贋作作品が売られているという事実は美術業界の暗部ではあるが、絵画が財産性を持つものである限り、そして人類がお金や財産に振り回されている限りどこまでも付きまとう現象である。
絵画の価値(2)「財産性・投機性」

絵画の価値(3)「精神性」その1・生き様を映す絵


話を朴壽根に戻そう。

●朴壽根「洗濯場」は贋作か?
今回の朴壽根生誕100周年記念展にはその「洗濯場」が出品されている。

朴壽根は高額人気物故作家ゆえに贋作が多く私も彼の贋作を6~7点見る機会が韓国であった。そのときに真作との差異を実感した経験がある。私が見せられた贋作は朴壽根独特のマチエールの妙味に欠け、贋作とすぐ分かるものや一部本物と見まごうものもあった。

それらに比べれば今回の「洗濯場」は贋作とは言い難く、クオリティが高い。

「洗濯場」は1950年と1960年に描かれた2点が残されている。

■パク・スグン「洗濯場」(37×72cm)1950年作
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■パク・スグン「洗濯場」(50.5×111.5cm)1960年作
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疑いの目を持ってこの二つを見比べてみよう。あくまで私の見方だ。

疑惑に挙がった1950年の「洗濯場」は色彩が目立つ。朴壽根の他の作品に比べて、色彩はカラフルで、同じ1950年に描かれたという数点に似たような感じのものがある。朴壽根の絵は色彩を内に秘めたようなモノクロームで描かれているものが多い。また上記二つどうしは互いのマチエールに明らかな違いがある(10年の隔たりがあるので年代的に見比べた検証を要する)。あえて言うならば1950年のものは朴壽根の素朴な武骨さに欠けて奇麗すぎる。

参考までに1950年の絵二枚を掲載する。
■朴壽根「路商の女人たち」(28.5×18.5)1950年作
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■朴壽根「市場の人たち」(77.5×51.5)1950年作
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※1950年の「洗濯場」を贋作とするなら他にもあやしく思えるものがある。

とは言っても これだけの理由で贋作とすることはできない。

もう一つ不思議なことは、1960年に1950年のものよりも少し大きいが全く同じ構図の作品が描かれているのだが、レプリカのようにここまで同じ構図と内容の絵を描くだろうかという疑問がある。

シャガールはかつて故郷ロシアからパリに出てくることで自作を失った経験から意図的にレプリカを描いた時期があると聞く。

朴壽根にもそうした動機があったのだろうか?同じ構図の大作を描きたくて後で描いたのだろうか?

このように疑惑は残るものの、結論として「私にはわからない」。白黒を判断できない人間が、むやみに「あれは贋作だ」と言いふらせばそんな話が膨らんでしまい、下手をすると「贋作」という言葉が独り歩きしてしまう。

ただし「洗濯場」に対して贋作疑惑が消えないもう一つの理由がある。1950年作の「洗濯場」の鑑定委員会は画廊や美術館関係者などの10人ほどの専門家で構成されていたが、その中のひとりだけ「贋作」と主張するメンバーがいた。

もしこれが先述した東京美術倶楽部の鑑定会であるならば、この作品を真作と認めなかったということになる。といっても贋作とも認定しないが。

韓国近現代絵画史上最高落札価格の作品なればこそ、真贋の判断に厳格さを求めたくなる。

ペク・ナムジュンやソ・ドーホーなど国際的に活躍する作家を輩出している韓国である。だからこそ国内における鑑定機関の整備は韓国美術業界の発展のための課題であると言える。

「韓流ファインアート」韓国の画家たち

開運!なんでも鑑定団「中島誠之助の贋物鑑定から学ぶ」

平山郁夫・金興洙二人展回想ーKIM SOU死去

■パク・スグン「木と二人の女人」(14.5×24.2)1960年作
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