状況劇場とプリミティブアート

●唐十郎という人

「状況劇場」という劇団をご存知だろうか?先日NHKの番組で特集が組まれていた。


今から半世紀ちかくも前のことだ。1970年代中頃に大学生となった私は学生演劇に熱中した。当時、状況劇場はアングラ演劇の中心的存在だった。入学してすぐに入団した劇団の先輩に連れられ、初めて状況劇場の公演を見に行ったときの衝撃は今も覚えている。


◇「腰巻お仙」のポスター(横尾忠則作)

腰巻お仙横尾忠則.jpg


公演は広場に張られたテントの中で繰り広げられるのだが、観客は土の上に敷かれたゴザかシートに座って観る。別名紅テント(あかてんと)。今は名称が「劇団唐組」となって続いているそうで、メンバーも当時とはすっかり変わっている。


劇団の主宰は、劇作家であり演出家であり役者でもある唐十郎。岸田戯曲賞はもとより小説でも芥川賞を受賞し、さらに映画を作るなどその活躍の幅は広い。

唐は語る「芝居は観客を現実原則の外に連れ出すための麻薬」だと。

状況劇場の役者で二枚目として活躍した根津甚八(故人)は本当にかっこよかった。小林薫も二枚目半の味わいのある美しい役者だった。時折TVなどで見る小林は歳を重ねて魅力に渋さも加わっている。


劇中で根津甚八がモノローグ(独白)を語り出すと、テントの中に抒情の風が吹いたものだ。ヒロイン役の李麗仙に語らせたセリフもしかり。唐十郎の紡ぎ出す言葉はしびれるようなリリシズムにあふれている。

麻薬か魔法か?超常現象のような劇空間である。観客はその心地よさに引き寄せられ、また足を運ぶ。


芝居の練習中、台本の読み合わせで各役者が語るセリフを聞きながら、その作者である唐十郎自身が泣き出したという逸話がある。「いいなあ、なんていいんだろ」と言って涙をぬぐうというのだ。


なんとなく唐の気持ちがわかるような気がする。

芸術において、音の旋律や言葉が生まれるのは、作家の意識からではなく、どこか超越的なところから降り注がれてくるのだろう。モーツァルトも頭の中に流れるメロディを音符にしたと聞く。


戯曲もまた、そうやって書かれた言葉が役者の語るセリフとして現象化した時に「生命」つまりエネルギーを宿す。


天からもたらされた言葉が役者を通して語られるときに、唐十郎は初めて自分の戯曲を体感し堪能したのである。

唐十郎.jpg


●アートの本質

美術もまた超越的なところから注がれるインスピレーションが必要だ。そうやって生まれた作品にはエネルギーが宿る。


古代の壁画から現代アートに至るまで、原初的なエネルギーを宿しているものに鑑賞者は心を震わす。

◇キトラ古墳(白虎)

キトラ古墳白虎.jpg

◇ジャン=ミシェル・バスキア(作品と)

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絵画であれば、それはただ単に上手く描かれたものではない。


世界に渦巻くエネルギーを自身の肉体と精神を通して、平面のキャンバスの中に吐出する行為が絵を描くという行為ではなかろうか。


そこに現されたあるいは潜められたプリミティブ(原始的)なエネルギーが私たちの心を震わす。それは理屈を超えたものだ。


民芸運動を創設した柳宗悦の「直観」が見出した美もまた、その本質はプリミティブで純粋なエネルギーのあらわれだと思う。


◇朝鮮民画
李朝下巻p072.jpg


●時代や民族を超える


美術作品には民族性や国民性のようなものが現れる。例えば日本において、絵画だけでなく着物や工芸品に、多彩な中間色を調和させた繊細な色彩が見られ、それは日本人の特徴的な色彩表現と言ってもよい。


湿度の高い日本ではクリアな原色より中間色を自然の中に見ることが出来る。つまり人々が育った風土が色彩などの感覚に影響しているのだろう。あるいはもともと民族のDNAに秘められた感性があるのだろうか。


文明や技術の発達に伴ってファッションや産業デザインも洗練されていくが、時がたてば古びて見えるものは多い。しかし優れた作品はどんなに時が経っても新鮮な美を湛えている。


たとえば、芸術作品においてモネやゴッホなどの印象派は、技法としては古くとも作品の美は時代を経ても損なわれない。


アフリカ彫刻や朝鮮民画や南米やエジプトなどの古代遺跡にみる美術は、一見稚拙に見えるものであっても人々を魅了してやまない。民族や時代という特徴を備えてはいるが、そうした括りの枠を超えて美しい。


◇アフリカの彫刻(済州島アフリカ美術館蔵)

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そこに共通するのはやはりプリミティブ(原始的)で純粋なエネルギーである。


プリミティブなエネルギーとは、人類の根底に流れている情動の種を刺激するものなのかもしれない。それに触れた者の血を沸き立たせる力だ。


かつての紅テントの劇空間にもそれが渦巻いていたのだ。


状況劇場新宿ピットイン.jpg


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