「15代沈壽官」日韓をつないだ血脈

沈 壽官、日本語ではチン・ジュカン、韓国読みではシム・スグァン。1592年に勃発した文禄・慶長の役で豊臣軍が朝鮮出兵した際に慶長三年(1598年)、日本各地に連行された陶工たちの一人が開祖で、初代当吉から現在の15代まで継がれ薩摩焼の窯を守ってきました。

当時千利休が開いた茶道は大名たちのたしなみであり、名物と呼ばれる茶碗の値段は一個で国が買えるほどとまで言われ重宝がられました。

NHK日曜美術館「15代沈壽官」では幕末から明治にかけて活躍した12代・壽官が、廃藩置県の影響で薩摩藩というスポンサーを失いながらも努力の末に再興させたことが紹介されました。12代以降は全てこの沈壽官を名乗っています。 参考/沈家のあゆみ http://www.chin-jukan.co.jp/history.html (沈壽官公式サイト)

12代沈壽官の薩摩焼はウイーン万博で絶賛され、当時のヨーロッパの貴族趣味に適ったことで、薩摩だけでなく日本の陶磁器輸出全体を牽引したようです。

400年前に朝鮮から強制連行された陶工たちが、薩摩や唐津・有田という日本各地の陶磁器の窯を開き、それが育まれて江戸末期と明治のヨーロッパへの輸出産業に貢献しました。少なからずそうした恩恵のもとに国力を高めた日本は、近代において朝鮮半島を植民地支配下に治めた事実は、歴史のアイロニーでしょうか?

韓流ファインアート

さて、私は先代である14代沈壽官と会って話を伺ったことがあります。

2002年に鹿児島の展示会に韓国の円光大学美術大学教授の李重煕(イ・ジュンヒ)画伯を招待した際に画伯と一緒に訪ねました。

この1年ほど前、李重煕が韓国の円光大学の学長だったときに、鹿児島を訪問して14代沈壽官に名誉博士号を授与し、同大学で特別講演を設けたことがあります。

14代は早稲田大学の秀才で窯を継ごうか別の道を行こうか迷ったそうです。窯を継ぐ決心をしたものの「同じ大きさ、厚み、形を寸部違わずろくろでひこうとして、いくらやってもうまくできず、遂には指が曲がってしまうほどでした」とその苦労話を韓国の学生たちの前で打ち明けるとみな涙しながら聞いたといいます。

李重煕は「学生たちは先生のお話に皆感銘を受けていました」と、そのときの話に花を咲かせました。

すると14代沈壽官は、馬の尻尾で編んだ網巾(マングォン)という頭に載せる飾りを奥から出して来て見せました。これは400年前に朝鮮から連行されてきた初代沈壽官が身に着けていたものです。

ボロボロになった網巾を見つめながら「創作に行き詰まったときにこの網巾を出してよく眺めました」と語る14代ですが、その言葉に、伝統を守り抜いた陶芸職人というよりも現代に生きる芸術家であろうとした者の苦悩を垣間見ました。

また、窯のある土地に高台がありそこから海が見えます。「初代たちが玄界灘を越えてここに連れてこられたとき、故郷に続くであろうこの海を見ながら思いを馳せて頑張ったのでしょう。」と語る姿がとても印象的でした。
井戸茶碗「戦国武将が憧れたうつわ」根津美術館

このブログの第3回目に紹介した権玉淵(クォン・オギョン)もまた沈壽官を訪ね、墨と筆で揮毫をのこしておられます。

その権玉淵は「韓国的なものは一切残っていない」と歴代の沈壽官の作品を見た感想を私に語りました。

これは当然のことでしょう。血統をつないで400年間日本の風土で過ごしたならば、自ずと日本という地に同化してゆきます。ウイーンでの万国博覧会で絶賛を浴びたのは、日本的な精緻な工芸美であったことは間違いありません。

当初、侘び茶という茶道の道具としての器を求められて、朝鮮から連行されてきた初代の陶工たちです。その作品は日曜美術館に紹介されていましたが、朝鮮の陶土・釉(うわぐすり)を用いて焼き、火だけは日本のものでしたので火計り手(ひばかりで)と呼ばれました。

番組で初代当吉の作と紹介された茶碗です。(沈壽官HPから)
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なんともやさしい肌合いです。全体からただよう素朴な佇まいはその温かみを手に感じてみたくなります。

そして15代沈壽官の茶碗です。
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この二つの茶碗は現代と朝鮮初期(又は安土桃山時代)という400年余の時代の差異ではなく、韓国と日本という二つの国そのものを対比させているのではないでしょうか。

井戸茶碗「戦国武将が憧れたうつわ」根津美術館

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