韓国現代アートの巨匠・河鍾賢HA CHONG-HYUN「時代的変容」

近年、これほど驚いたことはありません。それは韓国のアーティスト河鍾賢(ハ・ジョンヒョン)の革命的な変容です。

河鍾賢といえば韓国美術界の重鎮で、モノクロームアートで韓国現代アートを牽引してきた作家の一人です。
韓流ファインアート

その作品は、フランスの大学の美術の教科書にも紹介され、また国内外の美術館に収められており、日本でも広島市現代美術館の300号の大作をはじめいくつかの美術館に所蔵されています。

1935年生まれで今年満76歳になりますが、30歳でパリビエンナーレ・32歳でサンパウロビエンナーレと海外の美術展に作品が出品されながら、本人が初めて海外に出たのは40歳を過ぎてからだと言います。

その分、韓国という土壌に育まれ、他のモノクローム作家に比べても民族的な感性が作品に色濃く反映されているように思えます。

作家としての活動以外には、弘益大学美術大学学長・韓国美術協会理事長・ソウル市立美術館館長などを歴任しており、社会的に広い経験と視野を持った作家と言えるでしょう。

この日、私の訪問は3年ぶりくらいになるでしょうか、自宅の敷地内にあるアトリエと展示室2つを案内してくれました。

さて、何に驚いたかといえば、まず下の画像で河鍾賢夫妻と一緒に映っている絵をご覧ください。

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これはアトリエで描きかけの新作ですが、河鍾賢という作家の作品を知らない人のために作家の最もポピュラーな作品を紹介します。

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これがモノクロームアートとして世界の美術館で企画展示されてきた作品です。

作品のタイトルは「接合」で、作品制作のコンセプトをあらわしています。目の粗い麻布のキャンバスの裏側から、グニュッと単色の油絵の具を押し出して、さらに表側からも塗ったりヘラで削ったりしながら制作します。いわば裏ごし絵画です。

それによってキャンバスと絵の具が完全に「接合」した状態になります。

「接合」は同じ民族が南北に分かれるという分断国家ゆえ生まれた作品コンセプトであると私は感じています。

初期の頃には色彩を使った作品もあります。

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■上の作品の部分拡大

しかし、作家としてはモノクロームペイントの時代が長くありました。上述した裏ごし絵画の「接合」の時代です。

この「接合」の前にはバラ線を使った作品で、分断の緊張状態を感じさせるような作品も発表しました。
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■1973年当時の作品でキャンバスの上にバラ線が貼られています
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また1973年の作品の裏側を表にして額装し展示室に展示していました。サインと共に1973の字が見えています。
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こうした旧作を再利用して2009年に新しい作品を作り上げたのがこれです。
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70年代、80年代、90年代の作品をキャンバスにバラ線で貼り付けたもので、過去への決別の意志を感じさせます。

そして、2010年から本格的に制作していった作品がこれです。
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拡大したところを見ればわかりますが、綿の布を貼った木型を何十本も作り、布地に薄墨で彩色します。一本一本のキャンバスを貼った木型の間に油絵の具をはさみプレスし、その絵の具が間から出てきます。

かなり強固にプレスされており、この作品においては、はみ出した絵の具は自然な状態のままにして手を加えていないそうです。

この制作コンセプトは、「接合」よりずっと以前、1972年の作品の延長線上にあります。
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■右側が1972年作で、紙を貼った型で挟んだ間からモノクロの絵の具がはみ出しています。左側がそれに基づいた新作の作品です↑

さらに作品は多様に発展しています。
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■鏡を使った作品です↑

そして最近取り組んでいる作品です
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■原色の絵の具に筆を入れ、さらにコラージュの布が貼られています↑

「大漁旗を風にはためかせているようだろう!」

これは禁欲的なモノクロームから解き放たれ、多彩な色彩に象徴されたよろこびが躍動的に表出したかのようです。

この原色の発散は、土俗的なシャーマニズムに通じるエネルギーを秘めています。

「私も一度思い切り色を使ってみようじゃないか」と決めてからイマジネーションの爆発が起こったのです。

モノクロームから革命的な色彩の爆発は、作家の内面に起こった出来事ですが、それを行動に移すということは、既に世界的な評価を受け長い間に作品イメージが定着した70才代中盤の作家としてはけっして容易なことではありません。

何がそこまで作家を駆り立てたのでしょうか。


私は、韓国のモノクロームアートは韓国社会に根付いている儒教が根底に作用していると見ています。

朝鮮時代において、彼らの美しい民俗的な原色(セットン)は、祝祭や冠婚葬祭の時以外はあまり外に出ることはなく家の中に隠されていました。

儒教が重んじた質素であることの美徳は、ある意味で禁欲を強いる抑圧となったはずです。

韓国は、儒教を国教と定めた朝鮮時代500年から、日帝植民地支配下の近代を経て、1945年の解放と共に突然現代がやってきました。

その間、儒教は為政者から庶民に至るまで根をおろして彼らのアイデンテティを形成しました。

ただ、韓国社会の現在は既にそこにとどまっておらず当然のごとく変化しています。

世界的規模で断続的に押し寄せる変化の波は、我々の想像をはるかに超えた新しい時代がやってくることを予感させます。

ここで申し上げたいのは、河鍾賢の近作におけるモノクロームから原色への移行は、単に儒教的な内的抑圧から脱却しようとする時代的な背景からくるだけではなく、真に夜が明けようとする時代のスピリチャルな気運に呼応し、その自覚など無いのだけれども作家が満を持して作品に表出させた色であると思うのです。

美しい絵画というものは、それぞれの色や線や形が生き生きと自分を主張しながら、全体は調和しています。

色で言えば、様々な原色を混ぜると単色のモノクロームになり、モノクロームは安心感がありますが暗くなります。それに対して原色は明るく見えますが調和せずして美しくは見えません。

「一人一人が独立した個性を発揮して互いに調和しながらよろこびに躍動する」という未来の方向性は、人類が他を気遣い互いに和してゆくという道を選択していくだろう、つまり人類は新たな夜明けを迎えるだろうということを河鍾賢の絵画が暗示していると言えば大げさでしょうか。


この作品は来年2012年6月に韓国国立現代美術館で予定されている河鍾賢展(初期から現在までの回顧展的な企画)で発表されますが、興味のある方は是非見に行かれることをお勧めいたします。
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