小説「貴婦人と一角獣」(その2)by RYOTA

小説「貴婦人と一角獣」(その1)by RYOTAの続きです。先にその1を読んでください。

■貴婦人と一角獣「我が唯一の望み」
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小説「貴婦人と一角獣」(その1)by RYOTA

 明美の頭は混乱していたが不思議に心は落ち着いていた。一角獣の物腰のやわらかさがそうさせるのか恐怖感はなかった。案外腹が据わったところのある女である。彼女はしばらく沈黙をつづけた後に思い浮かぶままを口に出した。
 「いったいどれくらい待ったというの?」
 「お前の世界で513年の間。」
 タピスリーが作られた年が西暦1500年前後とされているが、もしも1500年ならちょうど東京の国立新美術館で展示された年までの期間が513年である。一角獣は言葉をつづけた。
 「私はお前が去ったあとにずっとこの世界で待ちつづけていたんだよ。」
 「じゃあ、私はかつてここに居たというの?私の記憶の中にはこんな風景はないわ。あなたに会うのも今日が初めてだというのに・・・。」
 「初めてではない。お前はここで私を捕まえた唯一の乙女。お前の髪の色から身に纏っているドレスまで全てがあの時のお前そのものだよ。」
 伝説によれば、獰猛な一角獣は処女の懐に抱かれてはじめておとなしくなるということを明美は思い出した。
 「何度も言うけど一角獣を見るのは初めて。きっと人違い。なぜなら私は子供を3人も産んでいるのよ。だから一角獣を捕まえられる乙女なんかじゃないわ。」
 一角獣は哀しい目をして明美を見つめた。
 「あの時もお前は人の妻だった。男を知らない女だけが乙女だと思うのか?子供を産んだ女は乙女ではないと思うのか?」
 明美は言葉を失った。正直なところ頭が話についていけなかった。一角獣は追い打ちをかけるように語った。
 「一角獣にまつわるとき、乙女という言葉が意味するのは魂の清さだ。肉体は魂の衣にすぎない。だから荒ぶる獣である私がおとなしくなれる唯一の相手は清らかな魂を持った女。その女の懐に抱かれた瞬間、私はすべてをゆだねる。肉欲と物質に支配された人間たちにはそんな考えは及びもつかないだろうが。」
 「私はそんなに清くなんかないわ。美味しいものを食べたいし欲望だってある。人を許せないこともあるし嫉妬だってする。だからやっぱり人違いだもん。一角獣さん、お願いだから私を元のところに帰して!」
 明美は自分の言葉に悲しくなってベソをかきはじめた。

 「よいことを教えてあげよう。お前はお前たちの世界の21世紀という時間に住んでいる。私もそのことは理解しているよ。しかし、お前は500年以上前のフランスに生まれた。そしてi一度結婚するものの再びルヴィスト家に嫁ぎ貴婦人となった。6番目の貴婦人のモデルはお前だよ。お前は美しい。そのドレスもよく似合う。でも一角獣は外的な美しさに惑わされることはない。ただ魂の輝きだけを見つめるのだよ。」
 明美はなおも抵抗する。
 「私はクリスチャンよ。だからマリアが処女懐胎してイエス様を生んだあとにヨセフとの間に弟たちをもうけたとしても彼女の魂が聖くないとはこれっぽちも思わない。でも私はマリアのような聖女ではないわ。それにクリスチャンは転生を信じないの。この世の生を全うしたらあの世で永遠に暮らすのよ。できれば天国でね。」
 一角獣は哀れむように語った。
 「一回の人生で天国とやらに相応しい人間になれると思うのか。完璧な清さなどないのだよ。イエスは自分の十字架を背負って歩めと言った。お前が何を信じて生きていようと構わないが、もし人間が一回の人生であの世に留まるのなら天国に入ることができる者など一人もいない。」
 「じゃ、私だって同じね。あなたはなぜ私の懐に抱かれておとなしくなれるのよ、一角獣さん。完璧に清い人など居ないんでしょう。」
 「・・・完璧である必要はない。ただ、私にとってお前は清いのだよ。ただそれだけなのだよ。」
 明美は一角獣が何故かかわいそうに思えてきて言葉を失った。
 「ならば言おう。」
 一角獣は角を下げて横目で明美の目の奥を覗いた。
 「お前は、この物質的な宇宙で1000回の人生を全うしてきた。お前の時代につながる人類の歴史においては半分の500回くらいだが。お前は私と出会ったあと王にも女王にもなった。物乞いをした人生もあった。生まれてすぐ死んだことも。ただお前はそのたびに高潔な魂であることを願った。誰かのために生きようとした。王として暴君であったときもそのことで他人に大きな気づきを与えた。この世に生まれ出る前に悪役になる約束をしてそれを果たしたのだ。自らの前世の垢を洗い流そうとして生涯修道院にも入った。今は日本という国で愛する夫や子供に恵まれ幸せな人生を歩んでいる。しかし私は知っている。お前はこの人生でさえ肉親の愛に傷ついたことを。眠りについた子供を抱きしめながら絶望に打ちひしがれ涙で枕を濡らした幾つもの夜を。それでも人生をあきらめなかった。何よりもお前は人々を愛そうとしてきた。お前の人生の苦難のすべては、お前が清らかな魂として輝くためにあったのだ。」
 「どうしてそんなことが分かるの?」
 「神が見せてくれたのさ。」
 「神はなぜあなたに見せてくれたの?」
 「私が望んだからだ。」
 「望めばそうしてくれるの?」
 「そうだ。お前の人生もすべてお前の魂が望んだ結果だ。」
 「どうして私の人生を覗いたの?」
 「・・・・お前を守るためだよ。」


次回(その3最終回)に続く。

小説「貴婦人と一角獣」(その1)by RYOTA
小説「貴婦人と一角獣」(その3最終回)by RYOTA
小説「貴婦人と一角獣」(あとがきと続編ストーリー)
■貴婦人と一角獣「視覚」
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■貴婦人と一角獣「嗅覚」
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「おどりを踊る二人」(徐世鈺)からの物語


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