鴨居玲展「酔っぱらい」/カタルシス体験2

1990年代前半に作られたプーアル茶の老茶を飲みながら、ふと25年くらい前にひろしま美術館で見た「鴨居玲展」を思い出していた。すると、没後30年「鴨居玲展―踊り候え―」が開催されるという情報が舞い込んできた。

遅ればせながら足を運ばせてもらった。

■鴨居玲「道化師」パステル 1984年作
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■鴨居玲「酔って候」油彩 1984年作
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《鴨居玲展開催順序》
1.東京ステーションギャラリー 2015年5月20日~7月20日
2.北海道立函館美術館 2015年7月26日~9月6日
3.石川県立美術館 2015年9月12日~10月25日
4.伊丹市立美術館 2015年10月31日~12月23日


主催は、それぞれの開催美術館で、カタログには各美術館の学芸員が文章を寄せている。

この時点でカタログの文章は読んでいないが、展示を見ると、鴨居玲をこよなく愛する誰か一人の人間が、鴨居玲没後20年を見据えて資料を整理し、既に美術館や個人に納められている作品を集めたように感じる。

比較的小規模の展示ではあるが、よく整理されたプロの仕事と言える。

構成は次の章に分かれている
Ⅰ.初期~安井賞受賞まで
Ⅱ.スペイン・パリ時代
Ⅲ.神戸時代―一期の夢の終焉
Ⅳ.デッサン

●私の鴨居玲
このブログは、「自分のこととして絵を見る」ことを推奨している。絵画の見方(2)「自分のこととして見る」

私がそうした思想を持つようになったきっかけが実は鴨居玲の作品にある。

冒頭に述べた20年以上前のひろしま美術館での鴨居玲展で、一枚の絵からこれまで味わったことのない感動を覚えた。

それは、「絵を見て涙がこみ上げる」というはじめての体験だった。


鴨居玲は57歳で自ら命を絶った。彼の作品はといえば、自身の内面奥深くに潜んでいる「暗部」を凝視することで生まれたのであろう暗澹とした世界だ。一見するところ不気味でさえある。

自画像を多く残しているが、「酔っ払い」も「ピエロ」も彼の自画像である。その表情にはどことなく絶望感や苦悩が滲んでいる。

ただしそれらは見る者の同情を受け付けているわけではない。


酔っ払いを描いたテーマに「おっかさん」がある。母親が酒に酔った息子を説教しているこの絵には、鴨居玲自身の母親との情的な関係が描かれているという。母親は「いつまでそんなんだい」と酔っぱらいの息子を諭しているが、息子は母親が愛情から叱ってくれているのがわかるので安心感を抱く。

■鴨居玲「おっかさん」油彩 1973年作
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■鴨居玲「おっかさん」鉛筆・ガッシュ 1977年作
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酔っ払いの表情がとても愛らしく、滑稽でさえある。私はここに作家自身の純粋な心を感じざるを得ない。

■鴨居玲「私の村の酔っぱらい(A)」油彩 1973年作
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今回の「鴨居玲展―踊り候え」には、かつて自分が目頭を熱くした作品に出会えることを期待して行ったのだが、残念ながら無かった。

それはどんな絵だったかというと鉛筆デッサンで、等身大の「酔っ払い」を描いたものだった。上に掲載した絵のテーマに似ていた。

ここで断っておきたいが私は酒飲みではない。20代の若い頃は足にくるほど酔っ払ったことがあったが、ひろしま美術館で鴨居の絵に出会ったころはまったく飲むことはなかった。

「しかし、なぜ涙がこみ上げてきたのだろう。」考えて見た。

この酔っ払いは、とてもだらしなく、哀れで、薄汚れている。もしこんな酔っ払いが酒の匂いをプンプンさせて近寄ってきたら「あっちへ行け」と突き放したくなるだろう。

こんな酔っ払いは他人から忌み嫌われる存在だ。でもどうだろう。鴨居玲が描いたこの酔っ払いはどこか魅力的だ。純粋さや無邪気さがその表情や肢体からにじみ出ている。

そうだ、この酔っ払いはけがれがない。清らかなのだ。

それが私の潜在意識の奥底に眠っている何かを慰めてくれたのである。

あのとき私は、鴨居玲が描いた「酔っ払い」を鏡のようにして、私自身の内に潜む清らかなものを見出したのである。しかもそれはほんの一瞬で、思考するわずかの猶予さえ与えなかった。そして潜在意識の中のツッパリを解き放ち、自覚なき涙をまぶたにもたらした。

何かに感動するとき、たいていそれは既に自分の中にあるものだ。だから反応できる。

言い換えれば、鴨居玲の「酔っ払い」の内に秘めた純情が私の中のそれを刺激し、共鳴させ、拡大させることで、私の中に埋もれたネガティブな情を自浄したのである。

あの日、感情浄化=カタルシスは、予告も理屈もなく突然訪れ私の目頭を熱くした。

カタルシス体験/ポップス「S&G・ボクサー」」
画家の箴言名言(5)平野遼「本物の光」

※ひろしま美術館でのカタログが見当たらず、ネットで見つけた画像だが、もしかしてこれかもしれない。
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■鴨居玲「私の村のよっぱらい」油彩 1974年
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